源泉徴収すべきか迷ったことはありませんか?
以前に私が経理部で働いていたときに会社から個人に報酬を払うことがあり、この報酬の支払いの際に所得税を源泉徴収しておく必要があるのか迷ったことがありました。
個人に報酬や料金等を支払う場合、支払う側があらかじめ所得税を源泉徴収(天引き)して納付する必要があります。これは会社から給与をもらう時に所得税が源泉徴収(天引き)されて支給されるのと同じです。
本来、個人は1月1日~12月31日までの1年間の所得(儲けみたいなものです)にかかる所得税を翌年の2月15日~3月15日の間に申告し納付するのですが、個人に報酬や料金を支払う場合、支払う側があらかじめ所得税を源泉徴収(天引き)して、その個人の代わりに先に所得税を税務署に納付しておくというものです。
この源泉徴収によって、税務署(国)としては先に所得税を納付してもらうことができますし、個人の場合、確定申告をしない人がいるかもしれませんので、確実に税金を徴収することができるわけです。
どのような場合に源泉徴収が必要なのか
ネットで調べると下記の国税庁のサイトが出てきます。
No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm
上記の国税庁のサイトには源泉徴収が必要な報酬・料金等として次のものが記載されています。
・原稿料や講演料など
作家に原稿料を支払うときや大学教授などに講演料を支払う場合と記載されています。・弁護士など資格を持つ人に支払う報酬・料金
・プロ野球選手やプロサッカー選手、モデル、外交員などに支払う報酬・料金
・芸能人、芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
・ホステスなどに支払う報酬・料金
(以下、省略)
私の場合、この国税庁のサイトを見て、これ以外の個人へ支払う報酬・料金には源泉徴収が必要ないものなのだと思いました。でも、実は違うようです。
たとえば、個人でやっているプロカメラマンに撮影をお願いした場合やフリーランスの人にホームページやソフトウェアを作ってもらった場合などはどうなのでしょうか。
所得税法を見ますと・・・
源泉徴収が必要な報酬・料金は所得税法 第204条に定められています。
ネットで検索しても所得税法 第204条に定められている「源泉徴収が必要な報酬・料金」をまとめたサイトが見当たりませんので、以下にまとめてみます。
所得税法 第204条 第1項
・原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み、デザインの報酬
・放送謝金
・著作権、工業所有権の使用料
・講演料
・これらに類するもので政令で定める報酬または料金
・弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士の業務に関する報酬または料金
・その他これらに類する者で政令で定める者の業務に関する報酬または料金
・社会保険診療報酬支払基金法の規定により支払われる診療報酬
・職業野球の選手、職業拳闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人に関する業務または料金
・その他これらに類する者で政令で定める者の業務に関する報酬または料金
・映画、演劇、その他政令で定める芸能またはラジオ放送、テレビ放送に係る出演、演出、企画の報酬または料金
・その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬または料金
・ホステス等の業務に関する報酬または料金
・役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令に定めるもの
・広告宣伝のための賞金または馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
出処:e-govで検索
「政令で定めるもの」という記載が多いですよね。この政令というのは「所得税法施行令」のことなのですが、要するに法律(所得税法)では大まかなことだけを定めて、細かいことは政令(所得税法施行令)で定めているということです。
では、「所得税法施行令」を次にまとめてみます。
所得税法施行令では
同じように「所得税法施行令」もまとめてみます。
所得税法施行令 第320条
次の事項の報酬または料金
・テープ若しくはワイヤーの吹込み
(ワイヤーというのは音声を磁気録音するための針金のようなものみたいです)
・脚本、脚色
・翻訳、通訳
・校正
(校正とは、印刷の途中段階で誤りや不備を正すことです)
・書籍の装てい
(装ていとは、書籍を綴じて表紙を付け外形を整えることです)
・速記
・版下(写真製版用写真原板の修整を含むものとし、写真植字を除くものとする)
(版下とは、製版用の文字・図表・絵画などの原稿のことです)
・雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真
・技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料
・技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導若しくは知識の教授
・金融商品取引法 第28条第6項に規定する投資助言業務
次の人に対する報酬・料金
・計理士
(会計士の昔の言い方で、今は使われていない言葉です)
・会計士補
(旧会計士試験の合格者で試験には合格していますが会計士登録をしていない人のことです)
・企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む)
・測量士補
・建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む)
・不動産鑑定士補
・火災損害鑑定人若しくは自動車等損害鑑定人
・技術士補(技術士又は技術士補以外の者で技術士の行う業務と同一の業務を行う者を含む)
・プロサッカーの選手
・プロテニスの選手
・プロレスラー
・プロゴルファー
・プロボウラー
・自動車のレーサー
・自転車競技の選手
・小型自動車競走の選手
・モーターボート競走の選手
・モデルには、雑誌、広告その他の印刷物にその容姿を掲載させて報酬を受ける者を含む
・所得税法 第204条第1項第5号の「芸能」は、音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸又は物まねとする。
・同号の「政令で定めるもの」は、映画若しくは演劇の製作、振付け(剣技指導その他これに類するものを含む。)、舞台装置、照明、撮影、演奏、録音(擬音効果を含む。)、編集、美粧又は考証とする。
・所得税法 第204条第1項第5号の「芸能人」は、映画若しくは演劇の俳優、映画監督若しくは舞台監督(プロジューサーを含む。)、演出家、放送演技者、音楽指揮者、楽士、舞踊家、講談師、落語家、浪曲師、漫談家、漫才家、腹話術師、歌手、奇術師、曲芸師又は物まね師とする。
出処:e-govで検索
このように「所得税法施行令」まで見ますと、所得税を源泉徴収しなければならない個人はかなり多いことが分かります。
個人に報酬や料金を支払う場合には、上記の事項に当てはまるかどうかを確認されるとよいと思います。