業績が一時的に悪化している会社の場合、法人税や消費税を納付したくても手元にお金がないため、今すぐに納付できないことがあります。特に消費税は金額が多額なので納税のための資金が足りないということがありがちです。
この場合、税務署に書類を提出することで分割による納付が認められることがあります。「納税の猶予」と「換価の猶予」という制度です。
国税庁:国税を一時に納付できない方のために猶予制度があります(PDFです)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/itiji_leaflet.pdf
国税庁:[手続名]換価の猶予の申請手続
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200039.htm
1.納税の猶予
1-1.「納税の猶予」とは
「納税の猶予」とは、「猶予の申請の手引き」によりますと次のようなこととなります。
災害、病気、事業の休廃業などによって国税を一時に納付することができないと認められる場合や、本来の期限から1年以上経って納付すべき税額が確定した国税を一時に納付することができない理由があると認められる場合に、申請に基づいて納税が猶予される制度です。
1-2.「納税の猶予」が認められると
同じく「猶予の申請の手引き」に次のような記載があります。
(1)新たな差押えや換価(売却)などの滞納処分の執行を受けません。
(2)既に差押えを受けている財産がある場合には、税務署に申請することにより、その差押えが解除される場合があります。
(3)納税の猶予が認められた期間中の延滞税の全部又は一部が免除されます。
税金を滞納した場合、まず税務署から督促が来るのですがこの督促も無視していると財産を差押さえられることがあります。そこで「納税の猶予」を受けていると上記の(1)のとおり、財産を差押さえられることはないということです。
ちなみに税務署には裁判所の手続を踏まなくても差押をすることができるという強力な権限を与えられています(自力執行権といいます)。税の徴収は国家の根幹に関わることなので、このような強力な権限が与えられているのでしょうね。
あと(3)の延滞税の全部又は一部の免除ですが、延滞税というのは利息のようなもので納付期限の翌日から実際に納付する日までの日数に応じてかかります。その利率ですが、この記事を書いている平成29年時点では次のようになっています。
・納期限の翌日から2か月を経過する日まで・・・2.7%
・納期限の翌日から2か月を経過する日の翌日以後・・・9%
国税庁:No.9205 延滞税について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htm
国税庁:延滞税の割合
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai_wariai.htm
2か月を超えた後の9%という利率は今の金利水準からすると、かなり高いです。税金の納付を延滞していることに対する罰則的な意味合いもあるためと思われます。「納税の猶予」を受けていると、この延滞税の全部または一部が免除されるので税金を納付する資金がない人にとってはかなり有利となります。
肝心の税金の納付ですが「猶予の申請の手引き」には次のように記されています。
3 猶予期間
納税の猶予を受けることができる期間は、1年(*)の範囲内で、申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く国税を完納することができると認められる期間に限られます。
なお、納税の猶予を受けた国税について、申請者の財産や収支の状況に応じて、猶予期間中に分割して納付する方法によることを、税務署長が定めることがあります。
いずれにせよ1年以内に納付する必要があります。ただし、次の記載のとおり1年以内に全額を納付することができない場合にはさらに1年、猶予期間を延長することができる場合があります。
* 納税の猶予を受けた後、猶予期間内に完納することができないやむを得ない理由があると認められる場合は、当初の猶予期間が終了する前に所轄の税務署に申請することにより、当初の猶予期間と合わせて最長2年以内の範囲で猶予期間の延長が認められることがあります。
1-3.「納税の猶予」を受けるには
1-3-1.「納税の猶予」を受けるための要件
ただし、誰でも「納税の猶予」を受けることができるわけではなく、次の要件のすべてを満たす必要があります。
(1)次に掲げるもののいずれかに該当する事実(納税者の責めに帰することができないやむを得ない理由により生じた事実に限ります。以下「猶予該当事実」といいます。)があること
イ 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難に遭ったこと
ロ 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと
ハ 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと
ニ 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと
ホ 納税者に上記イからニまでに類する事実があったこと(2)猶予該当事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること
(3)「納税の猶予申請書」が所轄の税務署に提出されていること
(4)原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
(1)のホの「納税者に上記イからニまでに類する事実があったこと」には「売上の著しい減少又は経費の著しい増加によって損失が生じていること」も含まれますので業績が悪化して納税する資金がない会社も当てはまることになります。
また(4)の「原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること」ですが、担保がない場合には「申請書」の担保の有無を記載する欄に担保がない旨を記載することになります。
1-3-2.申請に必要な書類
猶予を受けようとする納税額が100万円以下か100万円を超えるかによって若干異なります。
○100万円以下、100万円超の共通で必要な書類
・納税の猶予の申請書
・災害等により納付困難となった場合、その事実を証明する書類
・源泉徴収等による国税の猶予を申請する場合には「所得税徴収高計算書」
・登録免許税の猶予を申請する場合には、登録等の事実を明らかにする書類
○100万円以下のときに必要な書類
・財産収支状況書
現在、納付に充てることができる資金の額や今後の収支、分割での納付の計画を記載します。
○100万円を超えるときに必要な書類
・財産目録
預貯金、売掛金・貸付金、その他の資産の状況等を細かく記載して現在、納付に充てることができる資金の額を記載します。100万円以下のときの「財産収支状況書」をもう少し細かくしたものです。
・収支の明細書
直前1年間の月ごとの収支や今後の平均的な収支等を記載します。これも100万円以下のときの「財産収支状況書」を細かくしたものです。
2.換価の猶予
2-1.「換価の猶予」とは
「換価の猶予」とは、「猶予の申請の手引き」によりますと次のようなこととなります。
国税を一時に納付することにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあるとみとめられる場合に、申請に基づいて差押財産の換価(売却)が猶予される制度です。
内容は「納税の猶予」とほとんど同じで「差押財産の換価が猶予される」点が異なるぐらいです。
2-2.「換価の猶予」が認められると
「猶予の申請の手引き」に次のような記載があります。
(1)既に差押えを受けている財産の換価(売却)が猶予されます。
(2)差押えにより事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産については、差押えが猶予(又は差押えが解除)される場合があります。
(3)換価の猶予が認められた期間中の延滞税の一部が免除されます。
私見ですが「納税の猶予」との違いは「既に差押えを受けている財産」があるかどうかの点だけと思えます。財産が差し押さえられない点や延滞税が免除される点については「納税の猶予」と共通しています。
税金の納付についても「納税の猶予」と同じで1年以内に納付することや猶予期間をさらに1年延長することが認められることがある点が共通です。
2-3.「換価の猶予」を受けるには
2-3-1.「換価の猶予」を受けるための要件
次の要件を全て満たす必要があります。
(1)国税を一時に納付することにより、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること
(2)納税について誠実な意思を有すると認められること
(3)換価の猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと
(4)納付すべき国税の納期限から6か月以内に「換価の猶予申請書」が所轄の税務署に提出されていること
(5)原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
要件はほとんど「納税の猶予」と同じなのですが、(4)の「国税の納期限から6か月以内に換価の猶予申請書」を提出しなければならない点が異なります。
2-3-2.申請に必要な書類
「納税の猶予」と同様に猶予を受けようとする納税額が100万円以下か100万円を超えるかによって異なります。
○100万円以下のときに必要な書類
・換価の猶予申請書
・財産収支状況書(←「納税の猶予」と同じ)
○100万円を超えるときに必要な書類
・換価の猶予申請書
・財産目録(←「納税の猶予」と同じ)
・収支の明細書(←「納税の猶予」と同じ)
3.まとめ
今回の「納税の猶予」や「換価の猶予」を申請する人たちは税金を納付しようとしている人たちですので基本的にこれらの申請を通りやすいと思います。
申請書等の書類の作成ですが、納税の猶予や換価の猶予の申請書とその他の添付書類(財産収支状況書、財産目録、収支の明細書)と金額が整合していなければならず、一旦税務署に提出しても書類間の金額が整合していない場合、受理してもらえないこともあります。作成については会計事務所に依頼されるのが手っ取り早いと思います。