従来の収益の認識基準
現在、日本では企業会計原則で定められている「実現主義」により、収益の認識が行われています。具体的には以下の2つの要件を満たしたときに収益を認識します。
(1) 企業外部の第三者に対する財貨または役務の提供
(2) その対価としての現金または現金等価物の受領
しかし、2021年4月1日以後に開始する事業年度の期首からは、「収益認識に関する会計基準」の対象となる取引については、この「収益認識に関する会計基準」による収益認識の基準に従って、収益を認識することになります。
収益認識のための5つのステップ
「収益認識に関する会計基準」の第17項には、収益を認識するための5つのステップが記載されています。要約しますと次の5つのステップです。
(ステップ1) 契約の識別
(ステップ2) 履行義務の識別
(ステップ3) 取引価格の算定
(ステップ4) 履行義務への取引価格の配分
(ステップ5) 履行義務の充足と収益の認識
(ステップ1) 契約の識別
本会計基準の対象となる契約の要件
まず、「(ステップ1) 契約の識別」からです。
「収益認識に関する会計基準」の第17項の(1)によりますと、「本会計基準の定めは、顧客と合意し、かつ、所定の要件を満たす契約に適用する」とあります。
所定の要件とは何か?が問題となりますが、これは「収益認識に関する会計基準」の第19項に記載されており、次のとおりです。収益会計基準では、この5つの要件を全て満たしている契約が適用対象となります。
(1) 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
(2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
(3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
(4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
(5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることととなる対価を回収する可能性が高いこと
この表現ですと分かりにくいので少し噛み砕いてみます。
(1) 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
簡単に言いますと、自分と相手が契約によって、それぞれがやるべき義務を約束しているということです。
ここで注意しなければならないのは、契約は「口頭」や「取引慣行」でもいいということです。つまり、契約書や覚書などの書面の有無は問わないということです。民法上、契約は「申込の意思表示」と「承諾の意思表示」の合致で成立し、契約書等の書面の有無は契約の成立に影響しないとされていますので、法律上は当たり前の話なのですが、「収益認識に関する会計基準」においても同様のことが謳われています。
(2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
分かりにくい表現ですが、売買契約で例えますと、買主は買ったものをもらう権利があり、売主は売上代金をもらう権利があるということであり、これらの権利が契約によって明確になっていることが必要ということです。
(3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
単に支払条件が契約によって明確になっていることが必要ということです。
(4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
何を言っているのかが分からない表現ですが、物を売ったり、サービスを提供した対価としてお金が入ってくるような取引でなければならないということです。
(5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることととなる対価を回収する可能性が高いこと
売上代金を回収できる可能性が高いということです。回収できる可能性が低い場合はそもそも売上などの収益を計上することはできないことになります。
本会計基準の適用対象とならない契約
「収益認識に関する会計基準」の第22項に次のような記載があります。
契約の当事者のそれぞれが、他の当事者に補償することなく完全に未履行の契約を解約する一方的で強制力のある権利を有している場合には、当該契約に本会計基準を適用しない。完全に未履行の契約とは、次の(1)及び(2)のいずれも満たす契約である。
(1)
企業が約束した財又はサービスを顧客に未だ移転していない。
(2)
企業が、約束した財又はサービスと交換に、対価を未だ受け取っておらず、対価を受け取る権利も未だ得ていない。
要するに、契約という形はありますが、何もなされておらず、お金のやり取りもなく、売掛金も発生しておらず、売主も買主も自由に解約できる状態ならば、売上を計上できるような状態ではないので、本会計基準は適用しないということです。
(ステップ2) 履行義務の識別
「履行義務」とは?
次に(ステップ2)として「履行義務」を識別することになります。
「収益認識に関する会計基準」の第32項に「履行義務の識別」についての記載があります。
契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する。
(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
(2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)
相変わらず何を言っているのか分からない文章ですが、「履行義務」として識別するものは、具体的な例として挙げますと、売主が「商品などの財を買主に引き渡す義務」や「サービスを提供する義務」であるということです。
上記の会計基準の言葉で説明しますと、次のものを顧客に移転する約束を「履行義務」として識別するということです。
・別個の財又はサービス
・別個の財又はサービスの束
・一連の別個の財又はサービス
そして、この「履行義務」ごとに収益の金額や計上の時期を決めることになります。
「履行義務」の単位
ところで上記では、「別個の財又はサービス」、「別個の財又はサービスの束」、「一連の別個の財又はサービス」とありますが、「別個の」ものかどうかは、どのように判断するのでしょうか。
また、「束」「一連の」とは具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。
「別個」の判断
これについては「収益認識に関する会計基準」の第34項に次のような規定があります。
顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする。
(1)
当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があること)
(2)
当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなること)
(1)はそれ単独で買主(顧客)が財やサービスの提供を受けて、経済的便益(利益)を得ることができるということです。
「収益認識に関する会計基準の適用指針」の第5項によりますと、具体的に、顧客が「財又はサービスを使用・消費できること」、「廃棄における回収額より高い金額で売却ができること」、「その他経済的便益を生じさせる保有ができること」、このような場合には「別個の財又はサービス」になる可能性があると記述されています。
(2)は「別個の財又はサービスを提供する約束」となるには、契約に含まれる他の「財又はサービスを提供する約束」と区分して識別できることということですが、たとえば、「建物の設計をして、その設計した建物を建築する取引」の場合、「建物の設計」と「建物の建築」は別々のものと考えられそうですが、買主(顧客)としては「建物の設計」をしてもらっただけでは、当初の「建物の完成」という目的をまだ達成していないので満足ではなく、「建物の建築」までしてもらわないと満足ではないはずです。
よって、この場合、「建物の設計」と「建物の建築」は別個のものではなく、「建物の設計」と「建物の建築」の2つで1つの(別個の)「財又はサービスを提供する約束」=「履行義務」として認識することになります。
このように形式的に見ると「建物の設計」と「建物の建築」は、それぞれ「別個の財又はサービス」になるように思えるのですが、契約の観点から考えると、これらはまとめて「別個の財又はサービス」になるということです。
最終的には、上記の「収益認識に関する会計基準」の第34項の(1)と(2)の両方の要件を満たさないと、「別個の財又はサービス」として認識できないということになります。
別個の財又はサービス
商品の売買契約のイメージです。商品を顧客に引き渡すことで前述の「収益認識に関する会計基準」の第34項の(1)と(2)を満たします。
つまり、顧客は商品を受け取ることで(1)経済的便益を得ることができ、(2)については契約に含まれる他の約束はないため、「別個の財又はサービス」と認識することができ、これを提供する約束が「履行義務」となります。
別個の財又はサービスの束
前述の「建物の設計をして、その設計した建物を建築する取引」の場合です。
「建物の設計」と「建物の建築」は別々に見ますと、「収益認識に関する会計基準」の第34項の(1)の経済的便益を得ることができますが、顧客の目的はあくまでも「建物の完成」ですので、「建物の設計」と「建物の建築」は区分して識別することはできず、(2)の要件を満たしません。
よって、「建物の設計」と「建物の建築」は2つで「別個の財又はサービスの束」として認識することになります。
一連の別個の財又はサービス
「収益認識に関する会計基準」の第128項では、例として「清掃サービス契約」が挙げられています。
たとえば、毎日清掃サービスをする場合、その1日1日の清掃というサービスを提供する約束は、前述の「収益認識に関する会計基準」の第34項の(1)と(2)の要件を満たします。
つまり、(1)では、その日に清掃サービスを受けることで顧客は経済的便益を得ることができます。また、(2)においてもその日に清掃サービスを受ければ顧客は満足ですので、「別個の財又はサービス」として区分して識別することができます。
もっとも、このような「1日の清掃サービス」を「別個の財又はサービス」ととらえ、「1日の清掃サービス」×「清掃サービスを提供する日数」として、複数の「別個の財又はサービス」として認識することは手間の割にあまり意味があるとはいえません。
そこで「収益認識に関する会計基準」の第32条の(2)では、これら複数の「別個の財又はサービス」を「一連の別個の財又はサービス」として「単一の履行義務」として識別するものとしています。
(ステップ3) 取引価格の算定
取引価格を算定する際に考慮すること
ここからは収益の額をいくらにするかという話です。
「収益認識に関する会計基準」の第47項では、次のように記述されています。
取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額をいう。取引価格の算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮する。
取引価格は会社が見積もる必要があります。
実際には契約等で取り決めた売買価格が収益の額になると思いますが、その他に取引価格の算定にあたっては「収益認識に関する会計基準」の第48項に記述されている影響も考慮する必要があります。
顧客により約束された対価の性質、時期又は金額は、取引価格の見積りに影響を与える。取引価格を算定する際には、次の(1)から(4)のすべての影響を考慮する。
(1) 変動対価
(2) 契約における重要な金融要素
(3) 現金以外の対価
(4) 顧客に支払われる対価
以下、1つずつ見ていきましょう。
(1) 変動対価
顧客と約束した対価のうち、変動する可能性のある部分を「変動対価」といいます。
具体例としましては、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー、返品権付きの販売等が挙げられます。
変動対価の額の見積りの方法としましては次の2つがあります。
期待値による方法
確率による加重平均の合計額を変動対価の額とする。
最頻値による方法
可能性が最も高い金額を変動対価の額とする。
また、このような「変動対価」については、「不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分」に限り、取引価格に含めることができます。
(2) 契約における重要な金融要素
売上の代金を顧客が早く支払ってくれた場合、割引をすることがあります。
たとえば、通常は1か月後に売上代金を支払う約束のところ、商品を引き渡した日に支払ってくれたら、早く支払ってくれた見返りとして安くする場合です。
この安くした分の差額は金利と考えられますので、利息として計上することになります。また、売上の金額はこの金利分を除いた後の現金販売価格を反映した金額で計上することになります。
売上割引について上記のような考えでいたのですが、最近の情報を収集してみますと、「売上割引」は「変動対価」として売上額の控除項目として会計処理するように思えます。理由は以下のとおりです。
1. 「企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案) 「収益認識に関する会計基準(案)」等に対するコメント」における有限責任あずさ監査法人のコメントに「売上割引」を「変動対価」として会計処理する旨のコメントがあること
具体的には、同文書の「質問2(表示に関する質問)」において、以下の記載がなされています。
2. 2020年6月12日に公表された「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」によって、財務諸表等規則の第93条の(営業外費用の表示方法)から「売上割引」が削除されていること
具体的には、リンク先のPDFの13ページで、改正後の第93条において「売上割引」の文言が削除されています。
以上のように、「売上割引」については(利息としての性格を有してはいるのですが)、「重要な金融要素」ではなく「変動対価」として、収益(売上)の控除として会計処理することになるものと思われます。
一方、「重要な金融要素」に該当するものとしては、大型機械や不動産の販売や割賦販売のように、売上計上から入金までの期間がある程度長いものが想定されるのではないかと思います。
ただし、これらの取引であっても、財又はサービスを顧客に提供した時点と支払いを行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には、このような調整は不要とされています。
(3) 現金以外の対価
売上の代金を現金ではなく、現金以外のモノでもらう場合、そのモノの時価で売上を計上することになります。
ただし、時価を合理的に見積もることができない場合には、独立販売価格を基礎とした金額で売上を計上することができます。
(4) 顧客に支払われる対価
通常、お金は買主が売主に売上代金として支払うものですが、逆に売主が買主にお金を支払う場合があります。
たとえば、当社が顧客であるA社に商品を1年間販売する契約を結んだときに、当社の商品を収容するための棚の加工代を当社が顧客であるA社に支払う場合です。
この場合、当社の商品を収容するための棚の加工代として支払った金額は取引価格から減額することになります。
(ステップ4) 履行義務への取引価格の配分
「履行義務」への取引価格の配分
製品A、製品B、製品Cをまとめて販売する契約を結んだ場合、「(ステップ3) 取引価格の算定」は契約単位で行います。
一方、「(ステップ2) 履行義務の識別」は、「別個の財又はサービス」「別個の財又はサービスの束」「一連の別個の財又はサービス」ごとに行います。
ここで、収益の金額や計上の時期は「履行義務」ごとに把握しますので、「(ステップ3) 取引価格の算定」で見積もった取引価格は「(ステップ2) 履行義務の識別」で把握した「履行義務」に配分する必要があります。
上記の製品A、製品B、製品Cをまとめて販売する契約の取引価格が仮に120万円と見積もられた場合、この120万円を「製品Aを引き渡す履行義務」、「製品Bを引き渡す履行義務」、「製品Cを引き渡す履行義務」に配分することになります。
この配分は「独立販売価格」の比率で行います。「独立販売価格」とは、これらの製品を単独で販売したときの販売価格のことです。
当たり前の話になるのですが、それぞれの「独立販売価格」が製品Aが60万円、製品Bが40万円、製品Cが20万円の場合、この「独立販売価格」の比率で配分することになり、各製品の取引価格は「独立販売価格」と同額となります(製品Aが60万円、製品Bが40万円、製品Cが20万円)。
値引きの配分
上記の製品A、製品B、製品Cをまとめて販売する契約の取引価格が90万円と見積もられた場合はどうなるのでしょうか。
この場合、契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして、当該値引きについて、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分することになります。
よって、それぞれの製品の取引価格は次のように計算します。
製品A:90万円×60万円÷120万円=45万円
製品B:90万円×40万円÷120万円=30万円
製品C:90万円×20万円÷120万円=15万円
「独立販売価格」を直接観察できない場合
「独立販売価格」を直接観察できない場合には、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力数値を最大限利用して、「独立販売価格」を見積もります。
「独立販売価格」を見積もる方法にはたとえば、以下のようなものがあります。
調整した市場評価アプローチ
財又はサービスが販売される市場を評価して、顧客が支払うと見込まれる価格を見積もる方法
予想コストに利益相当額を加算するアプローチ
履行義務を充足するために発生するコストを見積もり、当該財又はサービスの適切な利益相当額を加算する方法
残余アプローチ
取引価格の総額から、契約で約束した他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積もる方法
(ステップ5) 履行義務の充足と収益の認識
履行義務の充足による収益の認識
いつ、収益(売上)を計上するのか、という話です。
「(ステップ2) 履行義務の識別」で把握した「履行義務」を充足した時、または、「履行義務」を充足するにつれて、収益を認識します。
「収益認識に関する会計基準」では、「一時点で充足される履行義務」と「一定の期間にわたり充足される履行義務」の2つのパターンで記述されています。
一定の期間にわたり充足される履行義務
「収益認識に関する会計基準」の第38項では次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合には、「一定の期間にわたり収益を認識する」と規定されています。
(1)
企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
日常的または反復的なサービスがこれに該当します。たとえば、清掃サービスなどです。
(2)
企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
顧客の敷地内で建物を建設する場合がこれに該当します。
(3)次のいずれも満たすこと
・企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
・企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
その顧客だけが使用できる特殊仕様の機械装置の製作などがこれに該当します。
一時点で充足される履行義務
上記の「一定の期間にわたり充足される履行義務」の(1)から(3)の要因のいずれも満たさない場合、「一時点で充足される履行義務」として資産に対する支配が顧客に移転することにより当該履行義務が充足されるときに収益を認識します。
資産に対する支配が顧客に移転した時点で収益(売上)を計上することになりますが、いつ支配が顧客に移転したかを検討する際には、「収益認識に関する会計基準」の第40項では、たとえば、次の(1)から(5)の指標を考慮すると述べられています。
(1) 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
(2) 顧客が資産に対する法的所有権を有していること
(3) 企業が資産の物理的占有を移転したこと
(4) 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
(5) 顧客が資産を検収したこと
ここで特に気になるのは「(5) 顧客が資産を検収したこと」と思われます。
従来の実現主義による売上の計上では、ほとんどの企業が商品を出荷した時点で売上を計上する「出荷基準」を採用していると思われます。しかし、上記の「(5) 顧客が資産を検収したこと」が収益の計上の要件になるとしたら、売上の計上のタイミングは「出荷基準」ではなく、「検収基準」になるように思えます。
もっとも、「収益認識に関する会計基準の適用指針」の第98項では、実務に配慮しつつ、次のような規定が設けられています。
(「収益認識に関する会計基準の適用指針」の第98項より必要な部分のみ抜粋)
商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点に収益を認識することができる。
出荷時から検収時までの期間が「通常の期間」であれば、「出荷時から検収時までの間の一時点」で収益を認識することができるということです。
出荷時から検収時までの期間が「通常の期間」であるかどうかの判断は、各企業がその個別的事情や業種・業態を考慮して判断することになります。
また、「出荷時から検収時までの間の一時点」で収益を認識することができるということですが、最終的には従来の「出荷基準」と同じく、「出荷時」に収益を認識することになると思われます。
さらに上記の規定は「国内の」販売に限られております。
とするならば、海外への輸出売上については、「検収基準」での収益の認識になるのでしょうか。
この点、上記の「収益認識に関する会計基準」の第40項の5つの指標は、「例えば」と記載されていることからも例示であり、収益の認識はあくまでも「資産に対する支配」が顧客に移転した時に行うことになります。
輸出取引でいえば、契約で法的所有権やリスクと経済的便益の移転時期が定められている場合はその時期で収益を認識し、契約で明確にされていない場合には、インコタームズによって判断することになります。実務的にはインコタームズで判断することがほとんどだと思われます。
具体的にはEXW(工場渡)やFCA(運送人渡)なら「出荷基準」になるでしょうし、FOB(本船渡)やCIF(運賃保険料込)なら「船積基準」、DDP(関税込持込渡)なら「検収基準」にすることが適切と思われます。
「収益認識に関する会計基準」の適用前の準備
(1)各部門の業務内容、契約の棚卸
各部門や子会社がどのような業務を行っているかを把握します。たとえば、商品の販売を行っている、サービスの提供を行っている、特殊仕様の機械装置を製作している、建物の建設をしている等です。
(2)「履行義務」の把握
(1)で把握した業務内容や契約の情報を元にどのような「履行義務」があるのか把握します。
具体的には、「(ステップ2) 履行義務の識別」で申し上げました次の3パターンのうち、「履行義務」がどれに該当するかを把握します。
・別個の財又はサービス
・別個の財又はサービスの束
・一連の別個の財又はサービス
(3)「取引価格の算定」に影響を及ぼす事項の把握
「収益認識に関する会計基準」の第48項に規定されている次の(1)から(4)の有無を確認します。
(1) 変動対価
(2) 契約における重要な金融要素
(3) 現金以外の対価
(4) 顧客に支払われる対価
(4)履行義務の充足と収益の認識パターンの把握
把握した「履行義務」が「(ステップ5) 履行義務の充足と収益の認識」で記述しました次のパターンのうち、どちらに該当するかを把握します。
・一定の期間にわたり充足される履行義務
・一時点で充足される履行義務
完全に私見なメモではありますが、現時点で思いつきました最低限は把握しておいたらいい事項を挙げてみました。もちろん、この他にも把握、検討すべき事項はありますので、個別に検討していくことになると思われます。