公認会計士のブログ 消費税

消費税を払わなくてもよい場合とは~特定期間による判定~

特定期間による判定

下記の関連記事で「国内取引」の場合、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の小規模な事業者については消費税の納税義務が免除される旨を説明しました。

消費税を払わなくてもよい場合とは~消費税の納税義務の免除~

ところが基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務が免除されないことになっています。

このことは下記の国税庁のサイトに記載されております。

No.6501 納税義務の免除|消費税|国税庁 – 国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm

(注1)
平成25年1月1日以後に開始する年又は事業年度については、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(※)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。

上記の国税庁のサイトの文章より、「基準期間」における課税売上高が1,000万円以下であっても「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えれば、消費税を納付しなければならないことになります。

これは平成25年1月1日以降に開始する課税期間から始まった制度です。本来は「基準期間」の課税売上高で消費税の納税義務を判定すればよかったのですが、この「基準期間」による判定をくぐり抜けても次に待っているのが、この「特定期間」による判定ということです。
結局、「基準期間」と「特定期間」の2段階で消費税の納税義務の有無を判定するということです。

 

「特定期間」とは

では、「特定期間」とはいつの期間を指すのでしょうか。その答えは前述の国税庁のサイトの文章にあります。


特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。

つまり、前年や前期の期首(初め)から半年間ということです。

国税庁のサイトより抜粋

よって、前年や前期の期首から半年間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、今年や当期においては消費税を納付しなければなりませんし、1,000万円以下であれば消費税を納付する必要はないということです。

 

課税売上高の代わりに支払った給与等の金額による判定も可能

給与等の支払額による判定

結局、「特定期間における課税売上高」はその年の前年や前期の期首から半年間の売上(固定資産などの売却額も含みます)になるのですが、わざわざ中間決算をするのも大変ですので、課税売上高の代わりに「特定期間中に支払った給与等の金額」によって判定することも認められています。これは上記で前述した国税庁のサイトの文章にも記載されています。

上記の(注1)の最後の文章で次のものです。

(注1)
~省略~ なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます

ですので、始めから課税売上高の決算額を算出せずに「特定期間中に支払った給与等の金額」だけで判定してもよいことになります。

結論としましては、特定期間中の「課税売上高」もしくは「給与等の支払額」のどちらかが1,000万円以下であれば消費税を納付する必要がありません。一方、特定期間中の「課税売上高」と「給与等の支払額」の両方とも1,000万円を超えているのであれば、当期は消費税を納付しなければならないことになります。

「給与等の金額」の内容

「給与等の金額」の具体的な内容ですが、消費税法基本通達1-5-23に記載されています。

消費税法基本通達 第5節 納税義務の免除の特例
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/05.htm

消費税法基本通達 1-5-23
特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定は、特定期間における課税売上高又は法第9条の2第1項《前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例》の個人事業者若しくは法人が特定期間中に支払った所法第231条第1項《給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書》に規定する支払明細書に記載すべき同項の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額のいずれかによることができる

この場合の、給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものとは、所得税法施行規則(昭和40年大蔵省令第11号)第100条第1項第1号に規定する給与等の金額をいうことから、当該給与等の金額とは、所得税の課税対象とされる給与、賞与等が該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当しないことに留意する

まず1行目ですが黄色のマーカーの所だけを読んでいただくと、「特定期間による判定は課税売上高と給与等の金額のいずれかによることができる」旨が書かれております。これは前述したとおりの話です。

そして2行目に「給与等の金額」の内容が記されています。1行目と同様に黄色のマーカーの所を読んでみますと、所得税が課税される給与や賞与や各種手当が「給与等の金額」に該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費などは「給与等の金額」には含まれないということです。

「所得税が課税されるもの」と「非課税とされるもの」の区分は次の国税庁のサイトが参考になります。

No.2508 給与所得となるもの
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm

2 手当
役員や使用人に支給する手当は、原則として給与所得となります。具体的には、残業手当や休日出勤手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となります。

しかし、例外として、次のような手当は非課税となります。
(1)通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2)転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3)宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの

一般的には通勤手当(月額15万円以下)、出張旅費、出張手当、宿直手当以外所得税が課税されますので、これら以外の給与の項目を特定期間の判定の際の「給与等の金額」に含めることになります。

「給与等の金額」には未払い額は含まれません

もう一つ、注意点があります。
上記で前述した下記の国税庁のサイトに以下の記載があります。

No.6501 納税義務の免除|消費税|国税庁 – 国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm

消費税法基本通達 1-5-23
~(注) 特定期間中において支払った給与等の金額には、未払額は含まれないことに留意する。

たとえば、給与の支払が月末締めの翌月10日払いの場合、6月分の給与は7月10日に支払うことになりますので、6月分の給与は「給与等の金額」に含めないことになります。帳簿上、6月に未払給与を計上していても特定期間の判定における「給与等の金額」には含めませんので注意が必要となります。

逆に前年12月分の給与は1月10日に支払うことになりますので「給与等の金額」に含めることになります。

このように「給与等の金額」については支払ベースで考えることになります。一方、「課税売上高」については発生ベースでの判定となります。

 

まとめ

消費税を納付しなければならないのかどうかという納税義務の判定は基本的にはまず、その年の2年前の「基準期間」の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判断するのが大前提となります。この「基準期間」の判定で課税売上高が1,000万円を超えていて、消費税を納付しなければならない課税事業者になったのでしたら、「特定期間」による判定はもう出てきません。

一方、「基準期間」の課税売上高が1,000万円以下で「基準期間」のハードルをくぐり抜けた後に待っているのが「特定期間」の判定となります。この「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えていれば、その年は消費税を納付しなければならない課税事業者になります。そして、「課税売上高」による判定に代えて「給与等の支払額」が1,000万円を超えるかどうかで判定を行うこともできるというお話です。

-公認会計士のブログ, 消費税
-

Copyright© 公認会計士 阪田剛史のサイト , 2024 All Rights Reserved.